このシリーズは昔、私がNIFTY-SERVE(今は亡きパソン通信サービス)の歴史フォーラム(FREKISHI)で連載したものを加筆訂正したものです。
序章 交代寄合とは何か?
さて「交代寄合」とは何でしょう? 聞き慣れない言葉ですが、よく考えるとピンとくる方もいらっしゃるでしょう。まず「交代」ですが、これはお察しの通り「参勤交代」のことです。それから「寄合」ですが、これはご存じの方もいるかもしれませんが、上級旗本のうち無役のものを指す言葉です。参勤交代が旗本にどんな関係あるんだ?とおっしゃるかもしれませんが、それでは謎解きをしてみましょう。
参勤交代という制度が江戸時代にあり、大名が将軍に拝謁するために江戸に出向き、一年間滞在したのちに国許に帰る、つまり江戸と国許で一年ずつ生活するということはみなさんご存じだと思います。(ただし、関東の大名は半年交替、水戸家や老中など役職に就いているものは定府といい江戸に常住していましたが) ところで、この参勤交代は大名だけが行っていたというように思われている方がいるかもしれませんが、実はそうではなく石高一万石以下の旗本の中にも参勤交代をした家があったのです。それが交代寄合です。
ところで、武鑑を見ると元禄十五年(1702)までに刊行されたものには交代寄合という項目はなく、翌十六年刊行のものに初めて「交代寄合衆」という項目が立てられていますので、交代寄合というのはこの頃に確立した格式のようです。ただ、それは旗本の参勤交代がその頃始まったということではなく、従来慣例にすぎなかったものを制度として整えたのがこの頃だと言えそうです。
では、なぜ旗本が参勤交代を行ったのか? それは、幕府が便宜上、大名の家臣を除く万石以下の侍を、旗本の中に組み入れてしまったために、徳川(松平)家譜代の家臣だけでなく、中世豪族の生き残りや大名になりきれなかった戦国武将、外様大名の分家、没落した名門の子孫など、本来大名になるべき経歴を持つ人々まで旗本になってしまったためです。参勤交代は、大名が行うという法令は出されておらず、細かい規定がないまま慣習化されてしまったため、彼らは自家が大名待遇であることを誇示することができることから、参勤交代を始めそれが定着したようです。
元禄十九年の段階では十九家でしたが、その後次第に増え、結局三十五家が交代寄合として維新を迎えています。また、最初は「交代寄合衆」のみであったのが、享保・元文頃(1735頃)に「交代寄合表御礼衆」と単なる「交代寄合衆」に分かれますが、前者の方が格式が高く石高も多かったようです。
交代寄合の諸家を見てみるといくつかのグループに分けることができます。
(1)交代寄合表御礼衆
「交代寄合表御礼衆」二十家は、大名並の参勤交代をなし、大名との差は単に石高が万石に達しないことぐらいといえます。実際、維新に際して六家は新政府から藩に列せられています。全体に外様系の諸家が多いですが、領内における統治権も諸侯同様全く独立した権限を有していたようです。
(2)交代寄合衆(四州)
「交代寄合衆」十二家は、那須衆・美濃衆・信濃衆・三河衆をあわせて「四州」と呼ばれますが、多くが中世以来の豪族の子孫です。相対的に「表御礼衆」に比べると小禄ですが、領内統治に関しては完全な領主権を行使していました。
(3)「四州」に準ずる家
このグループに属するのは三家ですが、四州と同じく中世以来の豪族の子孫が二家、もう一家は松平庶家の出でした。
以上、合わせて35家です。
以上は幕末の時点で交代寄合に所属していた諸家ですが、当然時代によって変遷があり、美濃明知の遠山家、信濃禰津の松平(久松)家等、また蝦夷松前の松前家もかつては交代寄合でした。
【参考文献】
『寛政重修諸家譜』 続群書類従完成会
『姓氏家系大辞典』 太田亮 角川書店
『三百藩藩主人名辞典』 新人物往来社
『日本史総覧V 近世二』 新人物往来社
『戦国人名辞典』 新人物往来社
『戦国大名系譜人名事典』 新人物往来社
『清和源氏の全家系』 奥富敬之 新人物往来社
『室町幕府守護職家事典』 今谷明・藤枝文忠/編 新人物往来社
『地方別日本の名族』 新人物往来社
『戦国大名家系譜総覧』(歴史読本臨時増刊) 新人物往来社
『戦国大名家370出自総覧』(歴史読本臨時増刊) 新人物往来社
『日本姓氏家系総覧』(歴史読本特別増刊) 新人物往来社
『大武鑑』 橋本博/編 名著刊行会
『宮廷公家系図集覧』 近藤敏喬 東京堂出版
『古代豪族系図集覧』 近藤敏喬 東京堂出版
『古代氏族系譜集成』 古代氏族研究会
『尊卑分脈』 吉川弘文館
『新・藩史事典』(歴史と旅臨時増刊) 秋田書店
『日本名門総覧』(歴史と旅臨時増刊) 秋田書店
『藩史事典』 秋田書店
『系図研究の基礎知識』 近藤安太郎 近藤出版社
『系図纂要』 名著出版
『江戸幕府旗本人名事典』 小川恭一/編 原書房
『江戸幕藩大名家事典』 小川恭一/編 原書房
『寛政譜以降旗本家百科事典』 小川恭一/編 東洋書林
『日本の名家』 読売新聞社
『コンサイス日本人名事典』 三省堂
『豊臣家存続の謎』 前川和彦 日本文芸社
『近江源氏』 田中 政三 弘文堂
『侍たちの北海道開拓』 榎本 守恵 北海道新聞社
『系図綜覧』 名著刊行会
『家康の族葉』 中村孝也 講談社
「交代寄合の格式と家系について」
(竹村雅夫、『姓氏と家紋 第35号』<日本家系図学会>所収)
「参勤交代をした旗本たち―交代寄合」
(藤本正行、『別冊歴史読本 徳川旗本八万騎総覧』<新人物往来社>所収)
「出羽の国,最上家の歴史」
(佐藤清五郎、『姓氏と家紋』<日本家系図学会>第50号、第51号所収)
「新田族譜」
(『鈴木真年伝』<大空社 鈴木防人/編>第2部所収)
「名族長沢松平家小史 ―武門 松平上総介忠敏の願望―」
(小川恭一、『姓氏と家紋 第60号』<日本家系図学会>所収)
「在原松平氏 ―松平郷太郎左衛門家と松平・徳川家のルーツ考―(前編)」
(伊東 宏、『旅とルーツ』<日本家系図学会>第85号所収)
